top of page

【高齢者の安全衛生対策】2026年4月からの努力義務化についてポイントを解説

  • 3月28日
  • 読了時間: 6分

1.はじめに                    


「ベテランのAさんが、工場のわずかな段差でつまずいて骨折してしまった」 

「介護現場で頼りにしていたパートのBさんが、腰を痛めて長期離脱することに……」


人手不足が深刻な今、60歳を超えるベテラン層は、企業にとって欠かせない戦力です。しかし同時に、現場ではこうした「加齢に伴う事故」のリスクが確実に高まっています。


こうした現状を受け、2026年4月1日から改正労働安全衛生法が施行されます。


これにより、すべての事業主に対して、高年齢労働者の特性に配慮した「労災防止措置」を講じることが努力義務となります。


今回の記事では、この法改正の背景から、企業が今すぐ取り組むべき具体的なアクション、そしてこの変化を「チャンス」に変える経営戦略について解説します。


2.なぜ、いま法律が変わるのか           


日本の労働者の約5人に1人が60歳以上という時代。


労働災害による死傷者の約3割を、この高齢層が占めているという厳しい現実があります。


特に注目すべきは、事故の内容です。

機械への巻き込まれといった派手な事故よりも、「転倒」「墜落・転落」「腰痛」といった、日常的な動作の中で起こる事故が圧倒的に多いのです。


その背景には、加齢による「筋力・バランス感覚の低下」だけでなく、「自分はまだ動けるはずだ」という本人の中にある「意識と身体のギャップ」が、無理な動作を誘発し、重大な事故を引き起こす引き金となっています。


今回の法改正は、努力義務ですが、「罰則がないなら後回しでいいだろう」と考えるのは非常に危険です。


 万が一、対策を怠った状態で事故が起きてしまった場合、裁判では「国が求めた指針を無視していた」とみなされ、安全配慮義務違反として多額の損害賠償を請求されるリスクがあります。


2026年の努力義務化は、企業としての責任のラインがより明確になる節目と言えるでしょう。


3.具体的に、何から手をつけるべきか?       


Step1 組織として取り組む「安全衛生管理体制」の整備


  1. 経営トップによる方針表明:自らが「年齢に関わらず健康に安心して働ける職場を目指す」という姿勢を明確にし、安全衛生方針として全従業員に宣言する。


  2. 実施体制の明確化:方針を実現するため、安全衛生部門や人事労務部門の中から担当組織・担当者を指定し、責任の所在を明らかにする。


Step2 リスクアセスメントによる「危険の見える化」


高年齢者の特性を考慮し、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針(リスクアセスメント指針)」に基づいたリスクアセスメントを実施し、対策の優先順位を決定します。


  1. 危険な作業の廃止・変更: そもそも危険な作業をなくす、または設計段階から危険を除去する。

  2. 工学的対策: 手すりの設置、段差の解消、防滑素材の採用など、設備面で解決する。

  3. 管理的対策: 無理のない作業手順の確立や、マニュアルの整備を行う。

  4. 個人用装備の使用: 身体負荷を軽減するアシストスーツや保護具を導入する。


Step3 具体的な「職場環境の改善」チェックリスト


身体機能の低下をハード面で補うため、以下のカテゴリー別に改善を推進します。


視覚・聴覚への配慮

  • 通路や作業場所の照度を十分に確保し、明暗差の激しい場所を解消する。

  • パトライト等の警告機器は、高年齢者の「有効視野」を考慮して設置する


転倒・墜落防止

  • 可能な限り通路の段差を解消し、階段には必ず手すりを設ける。

  • 床には防滑素材を採用し、水分や油分は即座に清掃する。


暑熱環境への対応

  • 感覚機能の低下を前提に、涼しい休憩場所を整備し、利用を強く推奨する。

  • 通気性の良い服装を準備し、ウェアラブルデバイス(IoT機器)等を活用して個々の体調を早期に把握する体制を整える。


身体的負荷の軽減

  • アシストスーツや移乗支援機器(リフト、スライディングシート等)を導入し、抱え上げ作業や人力による重量物取扱いを最小限に抑える。

  • 不自然な姿勢を強いないよう、作業台の高さや配置を個々の体格に合わせて調整する。


Step4 健康と体力の「客観的な把握」と適切な配置


個々の健康状態や体力の個人差が拡大するシニア層には、データに基づいた個別対応が不可欠です。


  • 健康状況の把握と丁寧なフィードバック: 法定健康診断を確実に実施し、産業保健スタッフから結果の意味を本人へ丁寧に説明する機会を設ける。

  • 体力チェックの継続実施: フレイルチェックやオンラインツール、身体機能セルフチェックを導入し、労使双方が「現在の体力」を客観的に把握する。

  • 適切な業務マッチング: 体力に見合った業務への配置や、複数人で業務を分かち合う「ワークシェアリング」を検討し、安全に働き続けられる環境を提供する。


Step5 効果を支える「安全衛生教育」の工夫


教育は高年齢者の特性に合わせた「伝わる方法」で実施しなければなりません。


  • 視覚情報の徹底活用: 教育資料には写真、図、映像を多用し、直感的に理解できるよう工夫する。

  • 丁寧な時間設定: 再雇用や異動による新しい業務の教育には、通常よりも十分な時間をかけ、確実に定着を図る。

  • 現代的ツールの活用: 危険予知訓練(KYT)に加え、VR技術を活用した危険体感教育を導入することも有効。

  • 周囲への教育: 高年齢者本人だけでなく、管理監督者や同僚に対しても「加齢に伴う特性」や「支援機器の取扱い」に関する教育を行い、職場全体でサポートする体制を構築する。



4.コストがご心配の場合              


「設備改修にはお金がかかる」と悩む中小企業のために、エイジフレンドリー補助金が用意されています。


 これは、高年齢労働者のための職場改善に対し、最大100万円(補助率1/2〜4/5など)が支援される制度です。


2026年4月からの施行に向け、今のうちから活用計画を立てておくことをお勧めします。



5.まとめ                     


高年齢労働者のための安全対策は、実は若手を含むすべての従業員にとって「働きやすい職場」を作ることと同義です。


「この会社は年齢を重ねても、安全に大切に扱ってくれる」 そうした企業の姿勢は、採用難の時代において強力なブランディングとなります。


労災防止を単なる「義務」や「コスト」と捉えるのではなく、優秀な人材を惹きつけ、定着させるための「未来への投資」と捉えてみてはいかがでしょうか。


まずは、ベテラン社員が歩く通路の「電球を一つ明るくする」といった、小さな配慮から始めてみませんか。





© 2025 SHIGEMATSU Labor and Social Security Attorney Office.

bottom of page